前回は、「諦める」という言葉の語源をきっかけに、人生の選択について話してくれた健ちゃん。今回はそこから、「自分の強みってなんだろう?」というテーマへと、話が広がっていきます。
自分の「強み」ってなんだろう
このまえ「諦める」の話をしたやん?
──うん。
あれ以降、自分のことを少しずつ明らかにしていくなかで、「結局、僕の強みって何なんやろう?」って分からなくなって。というよりも、「これが強みだ」っていう自信が持てなくなってたんよね。
それで、あるときコーチングのセッションで「自分の強みを明確にしたい」っていう話をしたんよ。
心のどこかで「山田さんの強みはこれですよ」ってコーチが教えてくれるんじゃないか、ってちょっと期待しつつ。でも一向にそんなことは言ってくれなくて(笑)
「山田さん、どうですか。内側からどんな声が聞こえてますか」みたいな、そんな問いかけばっかりで。
──コーチってそういう感じあるよね(笑)
「いやいや、僕は答えがほしいんやけど!」って内心モヤモヤしながら、でもコーチングってそういうもんだよな~と思いながら、とにかく1時間一生懸命しゃべったんよね。
で、セッションの終わり際、「山田さん、自分の強み、見つかりましたか?」って聞かれて、「いや、見つかんなかったっすね。むしろ答えを教えてほしいです…」って、ぽろっと言ったんよ。
そしたら、コーチが「この1時間、何を話していましたか?」って。
「会社の状況がこうで、自分はこういうのが苦手で、こういう役割を担っていて、足りない部分を補うにはこんな人が必要で…」って、要は組織のこと、仕組みのこと、どうやったら会社や経営がうまく回るかっていうことを、ずーっと話してたんよね。
で、コーチが一言。
「それですよ」。
順序立てて考えて、足りないピースを埋めていって、みんなをゴールまで導いていく。それってもう、十分すぎるくらい“強み”ですよ、って。
「じゃあ、それでいきましょう。お疲れさまでした」って、スパッと終わっちゃって(笑)
「あ…お疲れさまでした…」って、そのあとパソコンの前で15分くらい、そわそわしてたわ(笑)
──あはは!(笑)
「自分の強みはこれだ」って、はっきり言葉にして納得してからじゃないと動けないって思ってたんやけど…
本当に得意なこととか、好きなことって、頭で考えるよりも先にやっちゃうことだよなっていうか。それくらい自然にやってることが「強み」なんやって、コーチングの中で気づかされて…「やっぱ、コーチってすげえな」と思ったよね。
──コーチは「これが強みなのにな…」って思いながら、ずっと聞いてたんだろうね(笑)
自分のことって、案外分からない
こうやって、いくらでも喋っていられるっていうのも、自分の強みだっていうのがようやく分かってきて。でも、強みが明らかになっていくのって、正直ちょっと怖い感覚もあってさ。
──怖い?
うん。「これが自分の強みだ」ってはっきりした瞬間に、「じゃあ、それ本当にできるの?」っていうプレッシャーが乗っかってくる気がして。
強みとはいえ、すぐに使いこなせるとは限らない。「強みなはずなのに、うまくできない」っていう現実にぶつかるのが怖かったんやと思う。
でも、それって、自分のことをちゃんと見ようとしたからこそ出てきた感情でもあって。やからこそ、今は少しずつでも、自分の強みに向き合って育てていけたらいいなと思ってる。
──そっか。でも、不思議だよね。私から見ると、健ちゃんって強みがたくさんあるように見えるのに…本人は「分からん」と思って過ごしてきたんだ。
うーん、そうね。やっぱり、自分のことって一番分からんもんよね。
他者からのフィードバック
──「あなたはこう見えてますよ」って、日常の中でわざわざ言ってもらえるものじゃないからさ。「自分ってどう見えてるんだろう?」って、つい気になってモヤモヤすることあるよね。
うんうん。それって、ちゃんと聞いてみるのも大事なことやと思う。
──そうだよね。でも、ネガティブなことを言われるとめっちゃへこむから、いいところだけ教えてほしい!(笑)
めっちゃ分かる(笑)
──会社でやってた「360度評価」とか、ほんと苦手だったな…。でも、そういうフィードバックって、課題も含めて、自分ひとりで考えてても見えてこないもんだよね。
うん、ほんまに。
自分の中を開示して、「こういう人間です」って伝えていくのと、まわりの人たちから「こう見えてるよ」って教えてもらうこと。その両方があって、ようやく“自分”っていう存在が立体的に見えてくる気がする。ジョハリの窓で言うところの「未知の窓」って、そうやってしか開いていかないんやろうなって思う。
でも……僕、ずっと“なんちゃってコミュニケーション”やってきたから(笑)。表面的には誰とでもうまくやろうとするし、嫌われたくないから八方美人にもなる。でも、そのぶん、本当に深いところまでは人に見せてこなかったし、他人からのフィードバックも、実はちゃんと受け取ってこなかったんよね。
──そうなんだね。
うん。だから今、自分の窓をこじ開けようとしてはいるけど、それでも拾いきれてない感覚があって。
もっと早く、人とちゃんとコミュニケーション取って、「僕ってどう見えてる?」って素直に聞けてたら、違ったかもしれないけど——それを後悔しているというよりも、単純に、自分にはその経験が足りなかったんだなって、最近思うようになったんよね。
やから、これから少しずつでも、怖がらずに自分を開示しながら人と関わっていけたらなって思ってる。
自分が何気なく自然にやっていることを、『強み』と認識して使い方を覚えていくこと。それから、他者からのフィードバックを怖がらずに受け取ること。
この二つをやっていくことで、自分の強みをより活かしていけるといいよね。
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自分のことって、やっぱり自分にはいちばん見えにくい。でも、誰かと話すことで、その輪郭が少しずつ浮かび上がってくるんだなと思いました。
次回の縁側じかんも、どうぞお楽しみに!
取材・文 塩冶恵子